WP:COMMONNAMEの規定は明快です。信頼できる情報源が対象について最も頻繁に用いる名称を採用し、対象自身がどう名乗りたいかは考慮しません。この方針は、プレスリリースも、ブランド変更も、登記上の名称も、まとめて上回ります。記事の見出しを決める力を持つのは報道であり、対象本人にその発言権はありません。
記事名の変更には、改名提案と呼ばれる手続きが必要です。誰でも記事のノートページで提案でき、数日たっても異論が出なければ、そのまま編集者がページを移動して手続きは終わります。異論が出た場合は、通常一週間ほど続く議論に入ります。再掲載されればさらに長引くこともあります。参加者は検索結果の件数や見出しの用例、主要メディアの表記など、根拠を持ち寄ります。議論に関わっていない編集者が論拠を読んで議論を終了させるので、票の数がそのまま結論を決めるわけではありません。対象企業の社員十人が声をそろえても、出典を伴わなければ、一人分の意見と変わりません。
以前、あるソフトウェア企業と仕事をしたときのことです。その企業は資金調達を完了した週に、社名から「テクノロジーズ」という語を外しました。そして同じ日の午後には、ウィキペディアの記事名も変えてほしいと依頼してきました。私たちはともかく議論を提起しましたが、予想どおりの展開になりました。業界紙はその四半期に掲載したどの見出しでも、担当記者が三年間書き続けてきた変更前の長い社名をそのまま使っていたのです。変更を知らせる人は誰もいませんでした。提案は「移動なし」として終了し、クローズした編集者は、企業自身の発表は情報源がその企業をどう呼んでいるかの証拠にはならない、と正しく指摘しました。五か月後、二件の買収と新製品の発表を経て、短縮した社名が媒体から媒体へと広がったころ、私たちは再度提案しました。今度は四日で、異論なく終了しました。
プレスリリースは、企業がどう呼ばれたいかを語ります。検索結果は、実際にどう呼ばれているかを語ります。
ここで生じる遅れの正体は単純です。記事名は、報道が定着したあとに追いついてくるものだからです。ブランド変更発表の当日に改名提案を出すことは、独立した第三者がまだ何も報じていない段階で、企業自身の言葉だけを根拠に動いてほしいとボランティア編集者に求めることになります。業界紙、続いて通信社までもが新しい社名に落ち着いてから提案すれば、失うのは待つ時間だけです。議論は数日で終わり、情報源がまだ裏づけていない主張を社員が繰り返すあいだ再掲載が重なる、という展開も避けられます。
同じ原理は、社名の全面変更に限らず当てはまります。芸名や短縮した姓、頭字語で知られる対象であっても、記事名についての発言権は企業のそれと変わりません。決め手になるのは、編集者が実際に確認できる情報源に登場する表記のほうです。対象がどう呼ばれたいかを尋ねる前に、情報源が対象をどう呼んでいるかを確かめること。そうすれば記事名は、たいてい自然に定まります。